2015.AUT-002

イヴォン・シュイナードの魂を継ぐ『道具屋』

ブラックダイヤモンド、ギアの求道者

パタゴニアの創始者であるイヴォン・シュイナード。彼が自らの、そして仲間のためにピトンやカラビナなどのクライミング道具をつくるシュイナード・イクイップメントを設立したことがすべてのはじまりだった。そしてウェア部門はパタゴニアとして、またギア部門は、89年にブラックダイヤモンドとして分離独立する。鍛冶屋を意味するブラックスミスの「ブラック」と、シュイナードイクイップメント社のシンボルだったダイヤモンドCの「ダイヤモンド」を組み合わせて、このブランド名が生まれた。

かつて自らがクライマーのために作ったピトンで自然の岩肌を破壊してしまった経緯から、イヴォン・シュイナードは自然にダメージを与えないギアを作るというポリシーを第一に掲げ、それはブラックダイヤモンドにもしっかりと受け継がれた。今も各工場は排水や廃棄物の再利用など、出来うる限りの環境保全に積極的に取り組んでいる。
また「クライマーによる、クライマーの為の信頼できるギアを作る」という実戦的ギアづくりもブラックダイヤモンドのテーマであり、カラビナやハーネス、ピッケルなどのクライミングに係る幅広いアイテム群からウェア類まで、魅力的なギアを続々と産み出し続けている。

近年の注目アイテムでもっとも人気が高いもののひとつに、トレッキングポールが挙げられるだろう。雪崩捜索用のポール「アバランチプローブ」の利点をトレッキングポールに融合させ、革命的な折り畳み機能と剛性を備えたZポールシリーズは特に印象的で、サッと手軽に持てて、折り畳めば小型ザックにも仕舞えてしまうサイズが初心者にも受け入れられ、結果的に「ポールを両手について歩く」という安全登山の普及にも一役買った。今年は折り畳み機構に加えて長さ調節が可能なモデルも出て、愛好者のより多様な体格や使用感の好みに対応できる形になった。ハイエンドな先鋭技術によって、かえって入門層までが気軽に、最先端のポールを気軽に使って歩けるようになるのだ。研究室で生まれ、ごく一部の超級アルピニストにしか用の無い、閉じられた最先端技術ではなく、実際に山を歩く人のための現実的なクラフトマンシップによって製品が生み出されていることがわかる。

あくまでもクライミングギアである姿勢を崩さないウェアも優れものだ。長期山行でのさまざまな気温の変化や風雨に耐え、ちょうどいい厚みを持ち、しなやかな生地と細部に注意を払った縫製で大きな動きにも楽に追従してくる「アルパインスタートフーディ」は、山岳ガイドなど本格志向の登山家たちから支持を集めている。クライマーのためにクライマーが作るというポリシーはここでも息づいていると言えるだろう。

イヴォンが、見上げた岩肌のために自らギアを産み出し、しかし環境に与えた現実を思ってきっぱりと製造を辞め、さらにまた新たなギアを産み出していったように、ブラックダイヤモンドはリアルなクライミングの現実と常に向き合い、道具屋として一つ一つの問題をクリアしていく。その姿勢は、地に足をつけ、ルートを見極め、一挙手一投足で着実に目の前の壁を登っていく、クライマーそのものであるように見える。

ウルトラライトを追求するミニマリストのための、ソフトシェル製の超軽量ジャケット。さまざまなシチュエーションに対応できる万能さで、究極の道具として活躍するウェア。

クライマーの必須アイテム。カラビナ。フォルムだけでなくカラーリングも美しい仕上がりに、ブラックダイヤモンドのこだわりを感じる。

革命的な折り畳み機能と剛性を備えたZポールシリーズ。

足に寄り添う、イタリアの靴づくり前のページ

喜びと感謝を生んだ偉大な168Km次のページ

ピックアップ記事

  1. 母の日コーデ
  2. U-C-Oを受け継ぐ灯り
  3. 無限大の秘密基地
  4. ベアボーンズリビング ビーコンライト&ミニエジソンランタン
  5. 未来を変える、新世代繊維。

関連記事

  1. CAMPING

    日本人の魂に響く飯盒

    みんなが惹かれるのには、わけがある。今やクッカーの超定番にすらなった…

  2. CAMPING

    インド生まれの「映える」ジャグ

    丸みのあるフォルムが、どの方向からも日差しをとらえるから、ボディが輝…

  3. 2016.AUT-004

    もこもこ羊のスマートさ。

    スマートウールの羊毛学ウールの秘密ウールがあたたかいなどという…

  4. CAMPING

    スタンレー マグボトル

    あったかいものを飲みたい!の歴史とともに保温ボトルの歴史は意…

  5. 2015.SPR-001

    snow peak スノーピークの話

    日本のキャンプと寄り添い歩むスノーピークは、すこし変わったキャンプ…

  6. CAMPING

    グダーで新しい夏

    何事も「こうでなきゃ」では堅苦しいもの。スポーツサングラスも、あれじ…

最近の記事

Topics

  1. みんなで一緒にレトロX
  2. 今年ならではの小物選び
  3. 満たされる時間”ヒュッゲ”
  4. 遠くに行かない日のバッグ
  5. 寒いならDAS、間違いない
  1. COLUMN

    喜びと感謝を生んだ偉大な168Km
  2. 2016.AUT-004

    補給食が教えてくれた、自分自身のからだとの対話。
  3. 2016.SPR-003

    遊び方を操縦できる靴。
  4. CAMPING

    コーヒー通のためのセット
  5. CAMPING

    日本人の魂に響く飯盒
PAGE TOP