アウトドアの醍醐味を、どう伝えたものかとふと考える日があります。体を動かす爽快感や、健康維持への効果は誰もが認めるところでしょう。視界いっぱいに広がる美しい自然を仲間と共有するのは楽しい事ですし、空気がおいしいと単純に気分もいい。良いことばかりなのは間違いないのですが、しかしわたしにとってのアウトドア体験とは、もう少し深いところに響いてくるもののような気がします。
フィールドで天を仰いで、流れる雲の表情に思わず見入ってしまったことはないでしょうか。ゆっくり、あるいはダイナミックに形を変化させていく空の動きは見飽きることがなく、わたしはずっと心を奪われてしまいます。寄せては返す波の無限のリズムや、炎のゆらめきを見つめるときも同じで、こうした自然界にいつでもある光や音、ゆらぎの波長が、わたしの体にとても心地良いのです。だんだんと無心になって自分と自然が溶け合い、自分が解放されていく感触があります。
しっとりと降る雨音や肌を撫でるそよ風にやさしさを感じ、身に着けるウールやシルクの手触りを一層気持ちよく感じる。わたしにとってアウトドアでの体験は、普段は意識しなかったけれど本当の自分が求めていた、些細でナチュラルな何かに次々と気づき、理解するという、その連続なのです。自然は豊かで様々な表情を持っていて、わたしの五感と肉体がそれに呼応して鋭敏に開かれ、感じることがどんどん広がっていきます。自分の奥底から、生きていることはこんなに多様で、面白く、尊いのだとよろこぶ声が、毎回聴こえてくるのです。
社会的な毎日を過ごすうえで、わたしたちを規定する枠組みは確かに大切なものです。ルール、常識、効率性、有用性、競争する力。しかしそれらを超越し、解き放たれて自由な、そして細やかで大胆な、命そのものの価値を感じられる事こそがアウトドアの醍醐味だとわたしは信じます。だからわたしはアウトドアが、「役立つ」「良いもの」だと思う以上に、とても好きなのです。
株式会社ナムチェバザール
代表取締役
和田幾久郎