誰にでも、ひとつくらいは自分の宝物があると思います。そしておそらくそのほとんどが、大切な思い出とともにあるでしょう。
物自体の所有と、印象的な出来事や親しい人たちとの時間、忘れえぬ体験などが結びついて、宝物はひとりひとりの中で、唯一無二のものになっていきます。
私が長い間愛用してきた、メイドインアメリカ時代のオスプレーパックもそのひとつです。
このパックとは、世界を何周も旅してきました。
たとえば海と空の輝きがまぶしいニュージーランド「グレート・ウォーク」のひとつ、アベル・タスマン。潮の満ち引きに導かれ、カヤックとこの足で、飛び込みたくなるような美しいビーチとやわらかな砂浜、深い薫りをたたえる森林を辿りました。
またアメリカの誇るワシントン州の象徴、マウント・レーニア国立公園に広がっていた、火山と氷河そして豊かな植生が見せる絶景には言葉を失うほかありませんでした。
荒涼で美しい空気のエベレスト街道をひたすらに往く、ヒマラヤの思い出も鮮烈です。
共に歩き幾晩を越え、地球の裏側までを遊びつくした相棒。
未知の冒険に高鳴る鼓動を抑えきれない、そんな私の心臓のすぐそばで、背中にしっかりと背負われたオスプレーパックは、私とまったく同じ体験をして世界を味わい、自然と私の分身のように変化していったのです。
もはやそのとき、このパックはただの「物」ではなくなっていました。
現代は記録媒体も発達し、かつてより気軽にカメラや動画で「記録」を残すことはできるようになりました。
しかし、私があまたの旅で得た、トレイルでの出会いや歩みにこめられた思い、情景に揺さぶられた一瞬ごとの心は、切り取って外に出すこともできず言葉ですら語られず、私の中と、オスプレーパックの中にしか残っていません。
体験を共にし、私だけの思い出をぎゅっと詰め込んでいてくれる、こんな素敵な記憶の伝い手がほかにあるでしょうか。
触れるたび、私をかつての旅に引き戻し、思い出を溢れさせてくれるこのパックは、私にとってこの世の何にも代えがたい価値をたたえています。
きっと、すぐれたアウトドアの道具たちならこんなふうに、あなたの思い出によって、宝物に育っていってくれるでしょう。
株式会社ナムチェバザール
代表取締役 和田幾久郎